2013年1月23日、慶應義塾大学医学部の皮膚科学教室と生理学教室の研究グループが、ヒトiPS細胞由来の毛包構造の再現に成功したことを発表しました。
毛包は、構造の主要素となる皮膚細胞(ケラチノサイト)と、毛包の下端(皮膚の最も深い部分)にある毛乳頭の細胞で構成されています。この毛乳頭細胞は、毛髪を生成したり毛包自体を再生したりするシグナルをケラチノサイトに送信するという、きわめて重要な役割を担っています。
現時点の医学においては、かなり進行してしまった脱毛症状には、患者さん自身の毛包を脱毛部位に外科的に移植するといった治療法を選択する以外に、有効な手立てないのが現状です。
従って、発毛や育毛のメカニズムにおいて非常に重要な役割を担う毛包の再生が技術的に可能になったことは、男性型脱毛症や外傷による脱毛に悩む方にとっては、きわめて喜ばしいニュースと言えるでしょう。
今回成功した実験は、ヒトiPS細胞から皮膚前駆細胞を作製し、免疫不全マウス対し、毛を誘導する能力を有するマウス幼若線維芽細胞と一緒にに移植する、というプロセスで実施されました。
今回の実験で、ヒトiPS細胞由来の細胞を用いてマウスの皮下に再生された毛包において、毛髪が作られていることがはっきりと確認できたのです。
さらに、実験の成果からは、毛包を形成する場合、分化を完了した細胞よりも、むしろ分化プロセスの途上にある前駆細胞を使用するほうが有効であるということも示唆されました。
前駆細胞のiPS細胞からの誘導は比較的簡単に行えるため、あらためてiPS細胞の再生医療への利用の有効性が裏付けられた形になったのです。